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No.50
海に行った話
二人で海に行った。
珍しく、原稿からの逃避でも取材でもなかった。なんとなく海にでも行こうとどちらからともなく言い出して、次の休みを合わせた。何をどうするという計画もない。水着と財布だけ持って車に乗り込んだ。
サウナのような真夏日で、案の定着いただけでもうシンジはへろへろになっていた。それでもタオルを巻いた氷を頭に乗せて浅瀬で頑張っていたが、折しも雨が降り出して、さすがに海の家に避難した。浜辺にたくさんいた人影も見る間に疎らになり、一緒に店内に雨宿りしにきた客も一人また一人と帰っていった。シンジは帰ろうと言わなかったので、入口近い席にだらだらと二人で居座った。
とりとめもないことを喋った。湿った空気の中で気の抜けたラムネを舐め、紅生姜の色が移った焼きそばを突いていると、不思議と話題は尽きなかった。仕事のこと、お隣さんのこと、漫画の今後の展開、最近推してるコンテンツ、学生時代の思い出、互いのこと、もしもの未来の話。
開けた入口から見えるくすんだ青灰色の海に、雨粒が落ちていく音が夢の中のようだった。
帰る頃には雨は止んでいた。
「ごめん」車の助手席でシンジはもごもごと謝った。「あんまり楽しくなかったろ、遊べなくて……」
「楽しかった」
自分でも驚くほど穏やかな声が出た。腹が満ちているのは焼きそばのせいだけではなさそうだった。
「そう?そうか、そんならいいけど」
シンジは気を取り直したようにまた喋り始めたが、その声はやがて寝息に変わっていった。開けた窓から吹き込む風からは、まだ微かに潮の匂いがするような気がしていた。
#三木神
吸死文
2024.7.16
No.50
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二人で海に行った。
珍しく、原稿からの逃避でも取材でもなかった。なんとなく海にでも行こうとどちらからともなく言い出して、次の休みを合わせた。何をどうするという計画もない。水着と財布だけ持って車に乗り込んだ。
サウナのような真夏日で、案の定着いただけでもうシンジはへろへろになっていた。それでもタオルを巻いた氷を頭に乗せて浅瀬で頑張っていたが、折しも雨が降り出して、さすがに海の家に避難した。浜辺にたくさんいた人影も見る間に疎らになり、一緒に店内に雨宿りしにきた客も一人また一人と帰っていった。シンジは帰ろうと言わなかったので、入口近い席にだらだらと二人で居座った。
とりとめもないことを喋った。湿った空気の中で気の抜けたラムネを舐め、紅生姜の色が移った焼きそばを突いていると、不思議と話題は尽きなかった。仕事のこと、お隣さんのこと、漫画の今後の展開、最近推してるコンテンツ、学生時代の思い出、互いのこと、もしもの未来の話。
開けた入口から見えるくすんだ青灰色の海に、雨粒が落ちていく音が夢の中のようだった。
帰る頃には雨は止んでいた。
「ごめん」車の助手席でシンジはもごもごと謝った。「あんまり楽しくなかったろ、遊べなくて……」
「楽しかった」
自分でも驚くほど穏やかな声が出た。腹が満ちているのは焼きそばのせいだけではなさそうだった。
「そう?そうか、そんならいいけど」
シンジは気を取り直したようにまた喋り始めたが、その声はやがて寝息に変わっていった。開けた窓から吹き込む風からは、まだ微かに潮の匂いがするような気がしていた。
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